3. 体内時計の調律に最適な朝食メニューとは?

ここでは生活習慣病を退治する方法をご紹介します。
前回の記事では、
「オートファジー」を働かせるには、
10〜12時間の夜間絶食が必要であるというお話をしました。
その10〜12時間にわたる絶食(fast)を壊す(break)ための
朝食(breakfast)の意義は、時計遺伝子の調律にあります。
このページでは、
具体的にどのような朝食が良いのか?
おすすめメニューををご紹介します。
地球の自転と同調した方が断然生きやすい
前回の記事でもご紹介した体内時計・・・
少し復習してから本題に入りましょう。
ご存知のように地球の自転は24時間周期です。
正確には、23時間56分4秒だそうです。

地球で暮らす私たちも
24時間周期であれば何の問題もないのですが、
私たちヒトの体内時計は、
24時間10分くらい。
地球の自転より少し長いと言われています。
昔は、ヒトの体内時計は25時間と言われたこともありますが、
最新の研究では24時間10分とか、11分±数分とか、
いずれにせよ、24時間より少し長いのが特徴です。
地球上で生きているのに、
地球の自転と少しズレのある私たち・・・

たった10分の差でしょ、と思われるかもしれませんが、
この少しの差が散り積もると、
例えば、一週間後には、一時間以上夜行性にズレていってしまうのです。
ヒトは元々、夜行性になりやすい性質がある、というわけですね。
しかし地球に住んでいる動物ですから、
地球のリズムと体内のリズムは一致していた方が都合がよいのです。
そのため、体内時計を一日ごとにリセットする必要があり、
素晴らしいことに、ヒトの身体にはその仕組みが備わっています。
その仕組みが時計遺伝子です。

体内時計には2種類あります。
親分である主時計と、
子分である末梢時計です。
親分の主時計は、
目と目の間の、奥の方にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」にあります。
子分たちは、体の色々な細胞にいます。
視交叉上核以外の脳にもいますし、
肺や肝臓、腎臓、腸、骨格筋にもいます。
大切なことは、地球の自転と体内時計の調律には、
2段階あるということです。
一つは、朝目が覚めて、太陽の光を網膜に受けると、
主時計が地球の自転に同調します。
これが、第一段階。
これで概ねリセットされるわけですが、
実は、親分である主時計と、子分である末梢時計も、
少しずつズレていることが分かっています。
そこで、このズレを正すのが第二段階です。
どのようにズレをリセットするかというと、
「朝ごはん」です。

朝食の刺激によって、主時計と末梢時計が同調するのが二段階目です。
この二つが揃ってはじめて、
時計遺伝子がリズムよく動き出すようになります。
逆に、体内時計のズレがリセットされないと
何が起こるかというと・・・
血糖値を下げる「インスリン」というホルモンが効きにくくなったり、
食欲を抑える「レプチン」というホルモンが効きにくくなり過食となり、
体重が増加してしまうなどの弊害が起こります。
夜更かしすると太る、ということを聞かれたことがあるかもしれませんが、
その背景には、これらのホルモンの働きが関与しています。
朝ごはんはどんな組成が良いのか?・・・というお話。
ここまでをまとめると、
鍵は朝の時間帯にあることが分かります。
すなはち、ヒトの体内時計が地球の自転に同期するには
1. 朝日が網膜に届くことで、主時計がリセットされる。
↓
次いで、
2. 朝食の刺激を受けて、主時計が末梢時計をリセットする。
この二つの段階が、時計じかけのカラクリです。
では、朝食の刺激というのは
具体的に何のことを言っているのでしょうか?
これは、最近の風潮からすると意外かもしれません。
昨今は、糖質制限やローカーボなどが取り上げられることが多く、
一昔前の「油は悪」と同じように、
最近では糖質が悪者扱いされる場面を多く見かけます。
「スパイク血糖」は避けたいものですが、
別に糖質自体は、悪者ではありません。
その点については今後触れたいと思います。

体内時計を動かす要素の一つは、この「糖質」にあります。
糖質を摂ると血糖が上がり、
ある程度血糖値が上がると、
今度はインスリンという、血糖値を下げるホルモンが分泌されます。
インスリンは身体の中で、血糖を下げる唯一のホルモンです。
血糖を上げる仕組みはいくつかあっても、
血糖を下げるものは、このインスリンというホルモンのみです。
太古の昔、食べ物に困っていた時代を考えると、
血糖値を下げるより、
上げるほうが遥かに大事であったのでしょう。

体内時計の仕掛けでは、このインスリンが鍵になります。
食後にインスリンの濃度が高まることで、
肝臓をはじめとした末梢時計たちが動き出し、
主時計と同調するようになるのです。
これらを踏まえると、朝食に摂りたいものは、
インスリン濃度を上げる糖質が必要、ということが分かります。
糖質制限を意識している方には抵抗があるかもしれませんが、
朝食摂取後には活動しますので、
食後の血糖上昇に対して過度に心配する必要はありません。
ここまでが、
体内時計のリセットに必要な一つ目の要素です。
「糖質」を朝食メニューに取り入れると良い、ということですね。
では続いて、二つ目の要素について考えてみます。
朝食に取り入れたい、体内時計の調律に必要な二つ目の要素は、
タンパク質です。

実は、時間栄養学の研究から、
糖質のみでは、時計遺伝子を動かす力が弱く、
糖質に加えて「タンパク質」が必要であることが分かっています。
タンパク質を豊富に含むものは、
魚や肉、大豆製品や卵、乳製品などです。
これらを、糖質と一緒に摂ると良いということです。
糖質+タンパク質。
具体的なメニュー、浮かんできますか?

続いて、三番目の要素です。
朝食に取り入れたい三番目の要素は、魚の油です。
魚の油・・・
脂質が必要です。
ところで、
脂質には様々な種類があります。
時計遺伝子との関係から見ると、
中でも、n-3系の脂肪酸を豊富に含む脂が良いとされています。
ここで、
脂質の種類について簡単にご紹介してみます。
脂質は、「グリセリン」と「脂肪酸」という、
二つのものが合体してできています。
中性脂肪をトリグリセリドと呼びますが、
それは、グリセリンが3つ(トリ)くっついているからです。

脂質は、
3つのグリセリンと、一つの脂肪酸から成り立つものです。
そして、脂質は、脂肪酸の種類によって決まります。
脂肪酸も、大きく分けると2つに分類されます。
一つは、動脈硬化をすすめる油として有名な、「飽和脂肪酸」です。
もう一つは、逆に動脈硬化を抑える作用があると言われる「不飽和脂肪酸」。
この二つの違いは、構造の中に、二重結合があるかないかです。
二重結合のないものを飽和脂肪酸、
あるものを不飽和脂肪酸と言います。

・・・ややこしいですね。
後者の不飽和脂肪酸の一つが、n-3系脂肪酸です。
オメガ3脂肪酸と呼ばれることもあります。
とにかく、身体に良い方の脂肪酸を多く含むものが魚油です。
この魚油にはn-3系脂肪酸が多く含まれていて、
時計遺伝子の調律に大切である、ということです。
動脈硬化を抑制してくれるだけでなく、
時計遺伝子の観点でも魚油は大切です。
n-3系脂肪酸は、
エイコサペンタエン酸(EPA)とか、
ドコサヘキサエン酸(DHA)と呼ばれるものがあります。
聞かれたことはありませんか?
なぜこれらの脂肪酸が時計遺伝子に関係するかというと、
これらn-3系に脂肪酸は、
腸にある脂肪酸の受容体を介して、
インスリンの分泌を促すGLP-1というホルモンの分泌を促すからです。
一言でいえば、
魚油もインスリン分泌を促進するので、
体内時計のリセットに効果的である、ということです。
ここまでをまとめると、
時計遺伝子を地球の自転に同調させるためには、
朝ごはんに、
- 糖質を含み、
- タンパク質も含み、
- さらにEPA、DHAが含まれれば最高ということになります。
明日から迷わない、朝食におすすめのメニューベスト3

ここまでの3つの要素を全て含んでいるものといえば・・・
そう、私たちが食べてきた和食。
昔から日本人が食べている和食は、体内時計のリセットに最適です。
ご飯に、魚。
ご飯に、焼き魚。
ご飯に、煮魚。
ご飯に、蒸し魚。
選べるなら、ベストは青魚。
魚には、タンパク質もn-3系脂肪酸も両方含まれますので最適です。
もし魚が苦手であれば、
n-3系脂肪酸の効果は薄れますが、
ご飯+納豆でもいいですし、
ご飯+目玉焼きでもOK.

目玉焼きを作るのが面倒であれば、
卵かけご飯も立派。
ご飯が苦手であれば、
お餅でもOK.
パンでもOK.
パン+ツナマヨでもいいですし、
パン+スクランブルエッグもOK,

さてここで、
大事な野菜は?と聞かれます。
もちろん摂ったほうが良いです、とお答えしています。
食物繊維は、食後の高血糖を抑制しますので、
もちろん摂れたら良い。
ただ、
朝食をとる習慣のない方もそれなりに多いですので、
その場合は慣れてからで良いと思います。
さらにもう一つ、食事の「量」についても聞かれます。
ここでは、重量ではなく、エネルギー量のことです。
時計遺伝子の観点からすると、
意外なことに、
朝食の量、エネルギー量は、
時計遺伝子に大きく影響しないと言われています。
少しでもいいから口にする、という言葉をよく聞きますが、
朝食を少しでもいいから摂ることで、
体内時計をリセットすることができるのです。
ここまでをまとめると、
おすすめメニューとしては、
- ご飯+焼き魚
- ツナサンド
- 納豆ご飯 / 卵かけご飯
と言ったところでしょうか。
ご飯が玄米寄りであればさらに食物繊維効果を期待できますし、
他に野菜料理や具沢山味噌汁などがあればベストです。

統計的にも、40代の独身男性には朝ごはんを食べない方が多くいます。
患者さんの中には、
加熱したくない、料理したくない、という方が多くいますので、
そういう場合の人気メニューには、以下のようなものがあります。
- 納豆ご飯
- 卵かけご飯
- ツナサンド
- ツナ丼
- ご飯+冷奴
・・・など
これで立派だと思います。
朝、時間のない時にも対応できるように、
納豆と卵とツナ缶を常備しておく、
というのは非常に賢い選択だと思います。
あともう一つ、
大切なポイントをお伝えして終わりにしたいと思います。

親分の主時計と、子分の末梢時計の調律には、
朝日を浴びてから1時間以内に食べると良い、と言われています。
遅くとも2時間以内。
できれば起床後一時間以内に食べられるとベストです。
このあたりを考えながら、
自分に合った朝食メニューが出来上がるといいですね。
次の記事では、
時間栄養学の中から、
明日から使えるトピックをご紹介したいと思います。
素敵な朝食メニューが見つかるといいですね。


