6. カルシウム、いつ摂るのがベストかご存知ですか?

ここでは生活習慣病を退治する方法をご紹介します。
前回の記事では、
時間栄養学を活用した
シフトワーカーの食事の摂り方についてご紹介しました。
今回も時間栄養学から、日々の食事に活かせる小ネタをご紹介します。
今回は、「カルシウムはいつ摂るのがベストか?」。
読んでみて「へー、そうなんだ」と思っていただければ嬉しいです。
どんどん、カラダに合わせた食事に最適化していきましょう〜。
カルシウム・・・いつ摂ってはいけないという話ではなく、より良いタイミングはいつ?という時間栄養学の話。

22年間病院に勤務してきましたが、
勤務先も周りの病院も、他の介護施設でも、
牛乳は朝食に提供されます。
個別対応を除いて、
牛乳が昼食で出てくるとか、
夕食に出てくるとか、
そういう病院や介護施設を見たことがありません。
なんででしょう?

これはおそらく、
調理スタッフのマンパワー不足が絡んでいると思っています。
(個人的な意見です)
実はどこの給食施設でも、
早朝の厨房業務というのはかなり大変。
朝から電車が止まったり遅れると従業員が出勤できないので、
施設の給食も遅れたりします。
早朝出勤のできる従業員も限られますし、
何か食材に不具合があっても、
朝早すぎてお店も空いていないから補充もできない。

とにかく朝食を無事に提供する、というのは、
提供される側にとっては当たり前のことですが、
裏では言葉通り、厨房は戦場です。
私自身は、
社会人になった最初の2年だけ厨房業務に従事し、
その後は直接行うことはありませんでしたが、
台風や大雪などで電車が遅延した時はピンチヒッターで
厨房に入ることもありましたし、
とにかく朝の厨房業務は大変です。

このようなマンパワー不足がベースにあるため、
朝に手の込んだ料理はできませんし、
品数も少なめです。
そのため、品数を補うという目的もあって、
どこの施設でも牛乳またはヨーグルトなどの
乳製品を朝に提供しているのではないかと思います。
しかし実は・・・
カルシウムの吸収を考えると、
カルシウムをとるベストタイミングは、朝ではない、
ということが近年分かっています。
では、いつがより良いかというと・・・・

実は夕方に摂るのがベストです。
夕刻にかけて、
カルシウムの骨吸収が旺盛になりますので、
その前の夕方に摂るのがベストです。
ちなみに、
コップ一杯の牛乳は、
胃袋の中に2時間くらい停滞します。
乳製品の血糖上昇スピードは比較的ゆっくりですので、
小腹が空く夕方に乳製品を摂っておくと、
骨吸収の面からも、
お腹が空いてドカ食いを防ぐためにも、良いかもしれません。
日本人は、乳糖不耐症で牛乳を飲めない人も多い。

・・・
とは言っても、
カルシウムを摂ろう!
=(イコール)
牛乳を飲もう!
と一括りにする話ではありません。
一説によると、日本人の4割は乳糖不耐症といわれています。
かなりの数値です。
もっと細かくみると、
成人の7割くらいは、乳糖不耐症だと言われています。
乳糖不耐症の場合、
牛乳のほのかな甘みである「乳糖」を分解する
ラクターゼという酵素活性が弱いため、
乳製品を摂ると、乳糖を分解できずに
お腹が痛くなったり下痢などの症状が出たりします。

ただ、赤ちゃんは母乳を飲みますよね。
母乳のエネルギー源である乳糖を分解する必要がありますので、
赤ちゃんの小腸粘膜のラクターゼ活性は高く、
離乳した後に酵素活性が落ちてくると言われています。
ただし、酵素活性がどれくらい残るかというのは人によって異なります。
離乳後もそのまま飲み慣れている場合は、
腸内の乳糖を餌にする菌(ビフィズス菌やラクトバチルス)が増え、
腸内適応を起こす人も多いようです。

ヨーロッパやアフリカの一部では、
一万年前から酪農を営んでいることもあり、
大人になってもラクターゼを作り続ける遺伝子変異があるそうです。
牛や山羊の乳を飲む文化なので、乳糖を分解できた方が有利だったのでしょう、
ラクターゼ活性が残るよう進化したそうです。
カルシウムを摂ろう=牛乳を飲もう!
というイメージが強いですが、
以上のような背景がありますので、
そもそも牛乳を飲めないという体質は自然なことです。
ですので体質的に合わない方は、
乳製品にこだわる必要は全くありません。
そうは言っても、
日本人のカルシウム摂取量は不足気味という事実があります。
乳製品以外からカルシウムを補えるように、
どんな食品にカルシウムが含まれるかを整理してみましょう。
☝️吸収率を考慮して色々食べると良いよ。下に目安量あり。

カルシウムは、食品によって吸収率が異なります。
【吸収率(%)】
乳製品: 35-40%
小魚: 25-30%
緑黄色野菜:10-25%
大豆製品: 20-30%
ごまナッツ:10-15%
カルシウムサプリ(炭酸Ca):25-30%
カルシウムサプリ(クエン酸Ca.乳酸Ca)35-40%
少し前まで、牛乳のカルシウムの吸収率は60%と言われていましたが、
学術的な定義の整理が進み、近年では上記のように言われています。
最近の栄養学の教科書でも数値にはばらつきがありますので、
参考程度にご覧ください。
上記を見ると、
確かに乳製品の吸収率は華やかですが、
自分の体質に合わせて、
乳製品が合わない場合は、その他の食品から補えば良いということです。

実は、日本人はカルシウムが不足しています。
平均的な日本人のカルシウム摂取量は500mgくらいです。
これは厚労省の推奨量より150-200mg少ないのが現状です。
そのため厚労省では、現実的な手段として
牛乳1杯(カルシウムとして220mgくらい)の摂取を推奨しています。
乳糖不耐症がある場合は、
その分を他の食品で代替えすれば良いので、
牛乳1杯分のカルシウムは下記で代替えすることができます。
【置き換え例:牛乳コップ一杯分のカルシウム】
プロセスチーズ35g(スライスチーズ2枚)
ヨーグルト(プレーン)180g(カップ一個)
小松菜(茹で)150g(お浸し1〜1.5皿分)
ブロッコリー(茹で)300g(大きめ一株)
木綿豆腐180g(半丁〜2/3丁)
しらす干し(半乾)40g(大さじ3-4杯)しらすご飯1杯分
煮干し10g(小さじ1強、5-6匹)
ししゃも(焼き)60g(中サイズ3尾)
いりごま18g(大さじ2-3杯)
干しエビ30g(大さじ2杯弱)
食べられそうなものはありますか?
このあたりの食品は、意識していないと
なかなか摂れないのが現代ニッポン人の食卓かもしれません。
これならいけるかも、とピンとくるものがあれば、
食卓に取り入れてみると良いでしょう。
乳製品だけがカルシウムの給源でないことはわかった。一歩進んで、乳製品を摂る時の注意点も知っておこう。

世の中には、乳製品を摂ることについて賛否両論ありますよね。
摂らない方がいい、という意見もあれば、
摂らないという選択肢はないでしょ、という意見も。
今世界で言われている内容をまとめると、以下の通りです。
乳製品はカルシウム源として良いが、
・リンが多い
・飽和脂肪酸が多い
・骨粗鬆症予防にカルシウム単独では不十分
といったところです。
まず、リンについて。

リンというのはタンパク質と共存しているので、
タンパク源を摂ると必ずリンも摂っています。
乳製品にはリンが多めですよ、
ということだけ知っていただければ良いかなと思います。
普段はリンのことは考えないと思いますが、
腎機能が落ちている時は注意が必要です。
腎機能が落ちている場合、
血中のリン濃度が上昇してしまうことがありますので、
高リン血症が認めらえる場合は乳製品は控えめが良いでしょう。
さまざまな食事療法のある中、
腎臓の食事療法が一番ハイレベルだと思います。
考慮しなければならない要素がたくさんあるからです。
腎機能低下を指摘されている場合は、担当の医師と、
医師の指示を受けて話す管理栄養士のアドバイスを聞くのがいいと思います。
続いて、飽和脂肪酸が多いという点について。

これも、一日200ml(g)程度の牛乳、ヨーグルトを摂る程度であれば
大きく懸念する必要はないかなと思っています。
時々、女性患者さんの中には、
牛乳=悪のイメージを持っているけど、
発酵バターや洋菓子をたくさん摂っている・・・という方もいて、
どこが境目なんだろう、とかえって気になることもしばしばありました。
ただ時に、「僕牛乳大好きで、毎日1リットル飲んでいます」、
という男性患者さんにはそこそこの人数お会いしてきました。
こういうケースではよく、
脂質異常症であったり、肥満症を合併していたりするので、
少し控えていただくと、数値の改善も得られることは多いです。
毎日1リットルはさすがに多いと思います。
飽和脂肪酸は、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)を
上昇させる働きがありますので、
乳製品をガブガブ飲みたいのであれば、
低脂肪な製品を選ぶのも一案だと思います。
最後に、
骨粗鬆症予防にカルシウム単独では不十分という点について。

これは、
カルシウムが足りていれば骨は丈夫!という考えで、
カルシウム単体のサプリを摂っている方もいますが、
ビタミンDやKと共に摂ったり、
運動して骨に刺激を与える必要もあります。
皮膚でのビタミンD合成を促すためにも日光にあたるなど、
総合的にアプローチすることが望まれます。
ちなみに、皮膚でのビタミンD合成に必要な目安時間は、
顔と両手を出した状態で、
冬場は30分から一時間、
夏場は木陰で30分程度と言われます。
毎日30分程度のお散歩は
ビタミンD合成の点からも利点がありますね。
長くなりましたが、
以上が、カルシウムにまつわるアレコレです。
日々の食卓の参考にしていただければ幸いです。


